アジア旅行に関する本—「深夜特急」沢木 耕太郎著(新潮文庫)
言わずと知れた紀行記の名著。バックパッカーのバイブル。
日本からロンドンまでシルクロードを辿るように、バスや鉄道で巡る長大な旅の記録。
沢木氏が旅行したのは1970年代だが、今でもこれを超える長大な日本語の旅行記は書かれていないと思う。
現代はインターネットを通じて、いろんな情報を得ることができるから、旅行で苦労することは格段に減ったが、この本の時代には情報を得る手段がなく、現地の人に聞きながら、手探りで旅行するしかなかった。その様子が克明に記述されている。
例えば、今なら、バックパッカー宿といえども、事前にウェブで予約し、確保してから現地に行くだろう。
この本では、宿も現地で聞き込みして、実際に泊まってみて、さらに泊まるか、他の宿を探すかを決めている。
まさにその日暮らし。
交通手段も乗合バスにするか、鉄道にするかをその度に、現地の人に値段と時間を聞いて判断している。そもそもが、次にどの場所に行くのかでさえ、現地人に「どこがいいか?」と聞きながら、決めているくらいだ。

「苦労は買ってでもしろ」という言葉があるが、「深夜特急」の旅行はまさにそのようなものだ。
気ままにその日暮らしの旅行は、今となっては、ある意味、贅沢だと言える。
今の時代、これだけの期間をかけて、ヨーロッパまで旅行することは普通の人では無理だろう。
学生や仕事をリタイヤした人でなければ不可能だ。
また、お金の問題もある。
バックパッカー旅行で交通費や宿泊費を抑えているとはいえ、これだけの長旅になると、かなりの金額にもなる。物価上昇している現在に同じことをしたら、金額的にはもっとかかるだろう(今なら、こういう旅行記はYouTuberの格好のネタになるだろう)。
バスや鉄道で旅行することも現実的ではなくなった。
時間がかかってしょうがない。
LCCが普及した今となっては、バックパッカーにとっても鉄道旅行は難易度の高くなった。
発行時から時間が経っているため、情報としては古くなっているが、そこが逆に新鮮な部分でもある。当時の物価の安さを知ることができたり、バックパッカーの様子が垣間見れて面白い。
当時の様子を描く歴史的な価値がある本だと思う。