初めての海外はタイのバンコクだった。
急な仕事での出張だったので、充分な準備をする時間はなく、「とりあえず行く」という感じだった。急すぎて、不安を感じる余裕さえなかった。
バンコクに行ったとき、初めて自分の英語力の無さを痛感した。
現地の人が話す英語が聞き取れない。
普段から英語を使っていないわけだから当然だ。
ホテルのレセプションで言われた内容がわからない。
今考えれば、とても迷惑をかけたと思う。その時の係の人には申し訳ないことをした。
日本にいる時は英語の必要性を感じなかったのだが、海外に出て初めて「英語は勉強しておいた方がいい」と強く思った。

海外に行くようになってからも、その度に英語学習の必要性を痛感し、本で勉強したり、ラジオやYouTubeでなるべく英会話を聞くようになった。その甲斐があったのかどうかわからないが、基本的な日常会話ならば、なんとなくは聞き取れるようになった。やはり英語に接する機会を増やすのが習得への近道なのだろう。
観光旅行であれば、会話の内容はある程度限定されるので、コミュニケーションに苦労することはあまりない。アジアの場合、タクシーやホテルマンは英語が達者で、バリバリ英語を使いこなす。逆に、こちらのレベルに合わせて簡単な単語を選んでくれるほどだ。ベトナムでは、英語が苦手らしく、ポケトークみたいな自動翻訳機を駆使するタクシー運転手もいた。
日本人は英語が苦手だと言われるが、海外に行くとそれが本当によくわかる。
英語が母国語でない国でも、多くの国の人はそれなりにしゃべれる。
その意味で、日本は特殊だと思う。話せない人は本当に話せない。
危機感を持つために、日本人はもっと海外に行った方がいいと思う。
それもツアーのパッケージではなく、個人旅行の方がいい。
ツアーなら英語が必要な場面は少ない。ラクなのは確かだが、貴重な体験の機会を失っている。損をしていると思う。

英語で苦労している日本人観光客を旅先でたまに見かけることがある。
パリのルーブル美術館に行った時のこと。
チケットを買おうと窓口に並んでいたら、列の先頭で日本人男性が3人、窓口でチケットを買おうとしていた。
大学生ぐらいの年齢に見えたので、卒業旅行だったのかもしれない。
英語がわからないようで、どうしていいかわからず、ただひたすら立っていた。
窓口の女性は「あなたたち、日本人?」と優しく聞いていたが、何も返答できずにいた。
3人もいるのに、全員が何を言っているのかわからない。
同じ経験をしたことがあったので、助けてあげようかと思ったが、自分で解決するのが重要だと思ったので、あえてそのままにした。
後になって振り返ってみれば良い経験だし、英語を勉強するきっかけになるかもしれないと思ったからだ。彼らは結局、チケットは買えたのだろうか。最後まで見届けることはできなかった。
外国で、プールで過ごしていると、たまに外国人に声をかけられる。
これまでで、もっとも外国人に言われた英語は「Is it free?」だ。
「このビーチチェア、空いていますか?」
プールにいると、よく聞かれる。
最初に聞いた時はfreeの意味がよくわからなかった。
状況から言って「ビーチチェアのことを聞いているんだろうな」と思ったが、freeに「空いている」という意味があることを、その時、初めて知った。
バリ島だったので、オーストラリア人はそういう言い回しをするのかと思ったが、他の国に行った時でも全く同じフレーズを何度も聞いた。みんながこの言い回しで聞いてくるので、かなりポピュラーな表現なのだろう。もしかしたら、アジア人に対してなので、あえて簡単な単語を使っているのかもしれないが。